だ僕にとって。
省三 あんな、しかし病的な神経過敏と言うか――あんな人は唯単に両勢力の摩擦の間にとびこんだ虫みたいなもんで、摩擦に耐えきれなかったと言うだけだ。この現実中で生きて行く資格は無いですよ、気の毒じゃあるけど、ハッキリ言うと軽蔑するな。
私 君たちにあの人を軽蔑する事はできんよ。あの人が一番美しいさ。……僕は今になっても菅季治の姿をズーッと見つづけている。その中に、大事なことが全部ふくまれているような気がする。
省三 だからですよ、だから、それは何ですと聞いているんですよ。その大事な事と言うのは、何なんです?
私 わからない。……いや、説明すれば或る程度まで理論的には説明できない事はない。しかしそんな事をしても仕方がない。特に今の僕には、それは出来ない。
省三 やっぱり、すると、はじめから立てないとわかっている線の上に立って、トタンに死ねと先生は言ってるだけなんだ。
私 そういう事になるかな。……しかし、それで何が悪いかね? ……ただ、生きていると言う事が、それだけが、どうしてそれほど重大なんだろう?
省三 それが重大だからこそ、自分に取っても全体にとっても、生きよう、より良
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