十八度線は日本内地にも引かれている。それを境目にして、その向う側の第一の勢力と此方側の第二の勢力の対立の中間には実際的にはどんな立場も存在し得ない。そこまでは、あなた認めましたね?
私 三十八度線は線だからね。線には幅は無い。その上に人は立てない。そこに立とうとした、立って南北朝鮮を妥協させ統一に導びこうとした金九などは、その瞬間に殺された。生きておれないんだな。……そう認めたよ。
省三 認めといて、そいで第三の道、つまり、線の上に立てと言うんですか? すると、死ねという事を言ってるんですね?
私 いや、死ねだなんて、そんな――だから私には答えられないと言ってるじゃないか。ただね、どういうわけだか、自分でもハッキリ言えんが、僕が一番注目し、大事に思い、尊敬するのは、金日成でもなければ李承晩でもない。殺された金九だ、日本の国内を眺めても同じ事が言える。徳田球一も吉田茂も、私には、もう何かの影ぼうしのように見える。両方とも私には退屈だよ。そいで、いつかほら、両方の側から痛めつけられて自殺した菅季治、あの人の事は忘れられない。時々、夢に見るよ。尊敬すると言っては当らないんだなあ。大切な人なん
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