ヘッ、兄さんみたいなニヒリストに何がわかるか!
舟木 ニヒリストじゃないよ俺は。俺はこれでも医学という科学を信じている。……お前はもっと自分に素直にならなきゃ、いかんよ。無理が多過ぎる。たとえば――そうだ、お前は若宮の房代さんを、まるでダカツのように嫌ってるが、なぜそんなに嫌うんだ?
省三 嫌いだから嫌いなんですよ! 腐れパンパン! ペッ! ゲェ!
舟木 ホントにそうかね?
省三 ホントですよ。なぜそんな事言うんです? あんな女は戦争が生んだ悪の中でも一番下劣なウジのようなもので、あれにくらべると食って行くだけのために有楽町などに立っている連中は、まだ清けつだ!
舟木 いや、それならそれでいいが、僕には必らずしもそう思えないからだ。青年は青年らしい恋愛の一つもする事だ。そうなったら、そうなった自分をアッサリ認める事だ。房代さんの事には限らない。一事が万事で、自分に対して嘘ばかりついていると――
省三 ヘッ! 兄さんだって、じゃ自分に嘘をついていないと言えるんですかね? なんじゃないですか、兄さんはどうしてこんな家にいつまでもトグロ巻いている? 病院にゃチャント宿舎があるのに、わざわざ
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