からない筈は無いと思うわ。ちかごろ、男と女の好いたの惚れたのと言う事、もう、あたしにはどうでも、いいの。不感症と言うのかな。でも自分ではなんの不足も感じてないのよ。案外これで平々凡々な一生を送るんでしょ。あたし、早く年を取りたい。一日も早くお婆さんになりたいな。
浮山 もったいない事を言う。
柳子 どうもありがと、でもホントの気持なの。
浮山 冗談は冗談としてさ、どうだろう、ホントに柳子さん、資金を少し廻してくれないだろうかな?
柳子 ええ、でもさ、お婆さんと言えば、広島の此処のおばさん、近頃どんな工合なの?
浮山 うん、眼だけ開いているが、口は一切きけないし手足は利かず、耳も近頃ほとんど聞えないらしい。食べる物だけは普通よりもよけいに食う。まあ去年僕が行った時と同じらしい。いつまで生きているか――そう言っちゃ悪いが、早く死んでくれた方がいいがね。
柳子 ざんこくな事言うわね。
浮山 いや、ざんこくな気持からでなくさ。むしろ、その逆だ。あれで生きていても、しょうが無いだろうと思うんだ。僕はまだこれで多少は血のつながりの有る、つまり伯母さんのイトコの子だから、まあ同情はするけどさ、その僕
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