とやめる。そしてまたたきをしない眼を一方にやっている。その視線の先きの、暗い所に、いつの間に来たのか須永が音をさせないで立っている。
桃子の見えない眼が須永を見ている。須永も桃子を見守っている。……
桃子が何か言いそうに口を少し動かす。しかし声は出ない。
須永は、しかし、桃子から話しかけられたように、足音をさせないで、二三歩寄って行き、じゅうたんの上にのる)
[#ここで字下げ終わり]

     5 地下室

[#ここから3字下げ]
(真暗な中に、天井にわたされたケタから下っている円筒形の笠から落ちる電燈の光の中で、台の上にのせた平たい木箱を左右から覗きこんでいる浮山と柳子)
[#ここで字下げ終わり]
柳子 へえ、こんなものがお金になるんですかねえ?
浮山 金になるかならんか、まだわかりませんよ。なんしろ、養殖法の手引書一冊きりで、やりかけたばかりなんだから、しかし、うまく行くと、まあ、将来性は有る。
柳子 でも、こんな地下室の暗い、しけた所でなく、上の温室かなんかでは出来ないの?
浮山 駄目らしいんだ。方々でやっているのも、戦争中、山ん中などに掘った横穴壕を利用している。爆弾をよける
前へ 次へ
全164ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング