だ事を語るのに微笑んでいる。その日もハッキリおぼえていないらしい。落ちついていて、錯乱した形跡など少しも無い。……すると、この男とあの女は恋人同志ではなかったのか? そう思ったのは私の錯覚だったのか?
須永 ……(それに答えるようにスッと立って一二歩窓の方へ歩く)
私 なにかね?
須永 フルートです、あの。
私 うん。モモちゃんが二階で吹いている。
須永 ……(ジッと聞いている)
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(暗くなり、別の所が直ぐ明るくなり、そこは二階の洋室。以下、転換はすべてフラッシュ風に早く、なめらかに)
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4 洋室
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(こわれて使えないマントルピースの前の、これも古びているがそれでもまだ血をぶちまけたような鮮紅色のじゅうたんの上に、桃子が真白な素足でサギのように片足で立ち、もう一方の足は立っている方の足の甲の上にのせ、直立してフルートを吹いている。曲では無く、たんじゅんな二小節を、ただ息の続く限り、くり返しくり返し吹くだけ。細くたえだえな、それでいてどこか野性の、たけだけしい音色。
………………
はてしの無い繰り返しをフッ
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