る現実と言ったようなものは、空っぽで、まるで影ぼうしです。……そいで、やめちまいました。
私 ……わかるような気もするが、しかし――
須永 あなたには、わからないんです。だろうと思います。
私 ……うむ。……そいで、ほかのみんなは――ここにも来た園山君だったか、あの人など、どうしてる?
須永 あれは、死にました。
私 え、死んだ? ……それは、どう――?
須永 はあ。
私 ……そうかね、それは――
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(間。……どこかで笛の音がしている)
[#ここで字下げ終わり]
須永 モモコさんは、眼が見える望みは、もう無いんですか?
私 うむ?
須永 いえ、モモコさんですねえ――
私 ……だが、あの園山君という人と君とは、この、たしか――?
須永 ……(笛の音に耳をすましている)
私 どうして君は笑えるの?
須永 え? ……笑っちゃいません。
私 ……そうかねえ。ハッキリとはおぼえていないが、綺麗な人だった。なくなられたのは、いつ?
須永 おとついの――
私 おとつい?
須永 いや、先月の、おとついに当る――いえ、十五日ばかり前かな。
私 ……どうしたのだ此の男は? 恋人が死ん
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