なかった。若い人たちが詰めかけて来ると私はカッカと燃えて相手になった。あまり私が熱中するので、お前はそれを嫉妬したことがある。その火も消えた。だのに若い人たちは、まだやって来る。この須永もそのような青年の一人だ。
 二三年前に頼まれて、或る演劇研究の講座に一度話しをしに行った、その研究生の一人でごくおとなしい男だが、私がその時「演劇なんかどうでもよい。いかに生き甲斐あるように生きるかが問題だ。そのプログラムの一つとして、われわれの生を充たすプログラムの一つとしての演劇が大事なだけだ」と言うような事をしゃべった、その事に強く共鳴したと言って、それ以来時々訪ねて来ては、いろんな事を聞く。口数の少い男で自分の事はあまり言わぬから身辺の事はよく知らぬが、たしか近県に母と弟があり、自分は東京で下宿して、或る土建会社の事務につとめ、夜芝居の勉強をしている。戯曲も書くと言うが一度も読んだことは無い。頭も良いし、素直で重厚な人がら故、相当の物を書いていると思う。ただ、どこか女のようにはにかみ屋なので、読んでくれと言って持って来れないらしい。そうだ、人と言えば、その最近解散したと言う研究劇団の女優で、三
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