犬のように私は生きねばならない。どうせその意味を悟って見たところで、ライフにはたくさんのひどい苦しみと、たくさんの中位の苦しみと、ごく僅かばかりの楽しみがあるきりだ。なぜそうなのだろうと考え迷った末に私はこれまで二度ばかり自殺しかけたことがある。
今でも私は迷っている。わかった事は一つも無い。だのに私は自殺はしないだろう。……お前は死んだ。妻よ。私の中から何か大きなものを根こそぎ持ち去ってどこかへ行ってしまった。私は自分がどう言うわけでここにこうして生きているのか、生きておれるのか、まるでわからない。なるほど、お前はそこに居る。そこに私と並んで坐って私を見つめ、こうして私が原稿紙に書いている文章を読み、私の頭の中の考えの流れを見ている。お前はどこへも行きはしない。だのにお前はもうどうしようも無い遠方に行ってしまった。私は悲しんではいない。私の目に涙の影は無い。しかし前向きに進んで生きようとする気分も無い。喜びの明るい色のひとかけらもない。明るくはないが暗くも無い。そうなのだ。ほんとうに、生きて行きたいとは、まるで思わない。だのに私は自殺しようとは思わないし、自殺しないだろう。
私の
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