(身を立てて私を見る)遺伝的に、それが有るんだ、此の人には。しかし本式のテンカンじゃないだろう、今のこれは。一種のオルガスムが来ている。(ニヤリとして須永を振りかえる)何をしたの、君は?
須永 ……(柱にもたれてグッタリしていたのが、恥かしそうな弱々しい声で)僕は何もしやあしません。ただ柳子さんが、なんだか、僕に飛びかかって、むしり附いて来て、一緒に逃げようと――
舟木 逃げる? じゃ逃げるんだね、君は? (言いながら、ポケットから注射器のケースと注射薬の小箱類を取り出して、手早く注射の用意をしている)
須永 いや僕あ別に――柳子さんがそう言って――
省三 逃げるなら、早くしなきゃ。
私 逃げてどこへ行くんだ?
須永 行くところはありません。
私 それで、何をするんだ?
須永 する事は、なにもありません。
浮山 君は人を殺した。犯罪者だ。
須永 殺しました。犯罪者です。
モモ 須永さんは人なぞ殺さないわ。
織子 ああ、よして下さい! あなた、それはよして!
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(これは柳子の腕に注射をしようとしている舟木に言ったのである)
[#ここで字下げ終わり]
舟木 どうしたん
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