私 須永を? だって、あれは、ただ――
織子 あの方を見ていると、なにか、地獄へひきずりこまれるような気がします。……いえ、反対に、あの、地獄の中へ降りて来た天使を見ているような気もします。
私 それは、だけど、あなたはクリスチャンだから、そんな風に思われるかも知れませんが、あれは、つまりが犯罪者で――
織子 いえ、それだけではありません。舟木もそうなんです。舟木は、どういうんですか、さっきからしきりと薬品棚の劇毒剤の整理をはじめています。今まで夜中にあんな事したことは無いのです。……恐ろしいのです私。
私 ……ふむ。
織子 ですから私、さっき、もうこんな家など、どうでもいいから打っちゃっといて、明日からでも、どっか引越してしまいましょうと言いますと、舟木は何も言わないで私を睨みつけたまま、手を休めようとはしません。このままで居ると、今夜何がはじまるか、わからないような気がします。
私 しかし私には、知り合ってからまだ日は浅いが、舟木君がそんな事を考えている人だとは思えません。
織子 私も永いこと疑いながら、そうは思いきれませんでした。しかし近頃では、そうとしか思えなくなったのです。
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