れ! 助けてくれ! こ、こ殺さないでくれッ!
須永 いえ、僕は、あの……(言いながら、無意識にあわてて、不当に自分を怖れる若宮の狼狽をとめにでも来るように入って来る)
浮山 須永君!
須永 どうか、あの、許して下さい。僕は、ただ――
若宮 助けてくれッ! 助けてくれッ! 殺さないで、殺さないで下さいッ! (さがって行った床の間の袋戸に手を突っこんで、もがいている)
須永 ……(その若宮の奇怪な姿を見ているうちに、微笑する。その微笑の中に、はじめて、何か残忍な憎悪の影が差す)……殺す?
若宮 殺さないで下さいッ! 殺さないで――(叫んでいるうちに、手にふれた袋戸の中の物を引き出して、スラリと抜いて突き出している。道中差しの日本刀。黒いサヤから引き出された刀身がテラリと光ってブルブルふるえている)
須永 ……あぶないですよ、あの――
若宮 あぶ、あぶ、あぶ……(歯の根が合わない。刀を須永に向って突き出したまま、眼は裂けんばかりに見開いている)
浮山 若宮さん! 須永君!
須永 ……(フッと我れに返って。浮山を見て)あの、モモコさんどこでしょう?
浮山 モモコ? モモコは、さあ、……、塔の上
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