権利一切を譲るって事だなあ。
浮山 金は、それで、渡したのか?
若宮 渡そうかと思って、掻き集めて見ているとこさ、こうして。三十万にゃ、すこし足りない。
浮山 柳子はその金でどうする気だ?
若宮 そいつは、わしの知った事じゃない。なんでも、此処を飛び出して、どっかへ逃げる気らしいね。
浮山 え、逃げる?
若宮 ヘヘ、あんたもボヤボヤしていると、とんだトンビに油あげさらわれる。気をつけた方がいいね。ヘヘ、ああ出て行きますとも。誰がお前さん、こんな化物屋敷にいつまでも居たい事があるもんか。出て行くよ。しかしねえ、あたしが此処から出て行くと、あと、どんな事になるか御承知でしょうね? ヘヘ……(ヘラヘラ笑っているのが、なんの気もなく廊下の方を見て、ギョッとして、口を開いたまま、言葉が出なくなる。あまりの変化に浮山もびっくりして、廊下の方を見ると、そこに須永が立っている。……間。凍りついたような一瞬。……須永は、遠慮っぽい態度で若宮と浮山を見ている)
若宮 わあッ! (と、いきなり飛びあがるや、腰を抜かしたように、両手をうしろに突いて、床の間の方へ、ワクワクとにじりさがりながら)……た、助けてく
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