のと、違いまっか? ……(ジロリジロリと、立っている私の足の方から頭の方へ眼で撫でまわして)ならば、いっちょう、手を振って見ますかね? やって見ろ、やって見ろ、落ちると思ったら、どいつも此奴も振って見ろ。おさえる手筋はチャーンとおさえてあるんだ、ヘヘヘ、当ての無え先きものは買わねえんだ、はばかんながら此の若宮は! 五年前に芸者時分にチャーンと柳子の身体にゃ、わしが手をかけてある。ヘッ! こんだ落ちるとなったら、ひとり手に、狂って騒いで、あちこちといくらジタバタしたって、とどのつまりが私の手の中へ落ちないで、どこへ落ちるもんかね! 細工はりゅうりゅう! ハッパあチャーンとしかけてある、アッハ、アッハ!
私 ……(つかれたように喋りまくる相手を、自分に理解できない物を眺めるように眺めているうちに、次第に嫌悪と、次ぎに憎悪で睨みつけていたが、やがてプイと何も言わずに廊下へ立ち去って行く)
若宮 ……(チョイとそれを見送ってから、再びキョロキョロとあたりを見まわし)なにが、くそ! (ガサガサと又、紙幣や書類をカバンに詰めはじめる)
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(そこへ、私の去ったのとは反対の廊下か
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