(ニヤリとして)昔、聞いた事がある。人殺しの兇状持ちの男が洲崎の遊廓に逃げこんだ。

     16[#「16」は縦中横] 柳子の室

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(その深紅のじゅうたんの所が明るくなる。
そこに椅子の上にキチンと坐って、たった今まで弾いていた三味線の、三本の糸がバラリと掻き切れたのを左手に、右手に象牙のバチを振りかぶる様に持った柳子が、何かに魅入られたように一方の方を見守っている。その視線の先のじゅうたんの端の所に須永がボンヤリ立っている。……※[#始め二重括弧、1−2−54]この場合の柳子と須永はパントマイム。そして前の場の若宮の室は暗くならず、若宮が私に語る話も、そのまま続けられるので、同時に二カ所で事が進行する※[#終わり二重括弧、1−2−55])
[#ここで字下げ終わり]
若宮 その時もそいつは追いかけて来た人間を三四人も斬っていたそうで、返り血でもって全身血だらけだったそうだ。そのナリで何とか言う大きな女部屋の構え内へ飛び込んだ。騒ぎになった。
須永 モモコさんは――モモコさんは、どこでしょう? ……(柳子は無言で、眼は須永の顔の上に据えたまま、三味線とバチをわ
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