わしている。へっ!
私 柳子さんは全体どうしたと言うんだ?
若宮 わしの知ってる間だってもう五六年も男っきれを寄せつけなかった女だ。バクチに血道をあげちまって、色気の方はフタをしちまった。フタをしたって、無くなったんじゃない。内にゃ、あんた、クツクツ煮えて溜ってまさあ。そいつが時々ワザをするんだな。須永を見て――ただの須永てえ男だけなら、そんな事あ無いさ。現に夕刊のあれを知るまで何の事あ無かったもの。ヘヘ! 柳子は金をこさえて須永といっしょに逃げる気らしい。
私 嘘だ。
若宮 嘘じゃ無い。現に先程ここへ来て、手持の株から此の家の書類まで全部投げ出して、金を貸してくれと私に――あの権高な女が、この私に頭あ下げましたよ。本気だ。狂ったね女あ。
私 しかし、ああして三味線ひいている。
若宮 あれは、それでも、自分で気を落ちつけようとして弾いてるんだ。気が立ってくると、あの女あ、いつでもああです。(その三味線の音に二人が耳をやったトタンに、それまでズッと聞こえていたその音が大きくなり、ベリベリ、バリンと叩きつけるように響いて、ピタリと止む)
私 …………(そっちに気をとられている)
若宮 ……
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