筋は無い。しかしこの、とにかく人を殺して来た男だ、又、この――
私 大丈夫ですよ。おとなしい男です。
若宮 おとなしい男が、仮りにも自分の女の父親をしめて、次ぎ次ぎと、あんた――
私 いや、須永は大丈夫です。それよりも省三君に気をつけた方がよい。ひどく気を立てている。
若宮 省三? 省三君がどうしたんです?
私 須永がなにしたのは、自分の好きな女の義理の父だった。あんたは房代さんの父親だ。
若宮 ヘ! そ、そんな、木に竹をついだような。房代はわしの娘だけど、あれは自由に勝手にやっている奴だ。わしとは縁もゆかりも有りゃしない。わしの知ったこっちゃありませんよ。
私 須永の女の父は元軍人で今ブローカアで、国民運動やってた。あなたは株屋で、追放政治家と組んで何かしようとしている。いろいろと、なんか似てる。それに省三君は、ああいう一本気の激しい――
若宮 じょ、冗談! ヘヘ、それよりも、あの須永と言うのを一刻も早く、なんとかして。あんたの責任だ。
私 だから、捜しているんだが――?
若宮 モモコの所か柳子の所だ。あいつはモモコの後をくっつき歩いているし、柳子は眼を釣り上げて、あいつの尻を追いま
前へ 次へ
全164ページ中106ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング