んなりして、そいで、そこから君のする事すべてをやって行ったら――そうしないと、僕みたいになっちゃうよ。――いや結婚して身を固めてからほかの事をすると言ったような、そんな意味でなくだよ、そうでなく、自分の事とそれからほかの事との持って行き方の事なんだけど――
舟木 たしかに、それはそうだ。たしかに、愛情の問題に限らず、自分自身のもっと自然なあり方と矛盾しない形で、つまり自身から自然に押し出された形で、省三が事をするならば、政治運動だろうと何であろうと、私にもわかる。それなら私も反対しない。
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(そうして、シャツもズボンもズタズタの姿で膝を突いている須永を中心に、まだ死んだように寝ている柳子の姿をわきに、一同が半円形に立って語り合っている有様は、ちょうど殺人犯人が審問にかけられているように見える。しかし又それは、一同が犯人から審問されている光景とも見えないことはない)
(そこへ、階段に音がして、フラフラの若宮が、ほとんど土気色の顔をして、房代に助けられながら降りて来る。一同ふり返ってそれを見る。省三は思わず一二歩進み出して、これは房代ばかりを見ている)
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舟木 ああ、ジッとしている方がいいがなあ。
房代 (父のわきの下へ手を廻して、かかえるようにして光の輪の所へ来る)あたしもそう言うんですけど、どうしても来ると言って――
若宮 ……(唇がほとんど黒紫色になり、まるで面変りしてしまっている。激しく喘ぎながら)す、須永君は、どこだ? (見ているのにわからない)
須永 ……(相手の様子が変ってしまったのにびっくりして)あの、どうしたんです?
房代 (須永、舟木、私と次々と眼を移しつつ)脈のけったいが、ひどいんですの。今夜中に、あの、死ぬんだと、自分で言うんです。……(舟木は寄って行き若宮の脈をはかる)
若宮 (キョトリとした眼を私に移して)わかったんですよ。もう間も無く死ぬ。
私 いや、そんな。――しっかりしなさい。
若宮 ……(須永の顔をやっと見つけ出して)須永君、聞かしてくれ。全体こりゃ何だ? え? 全体こりゃ、どう言うわけなんだ? え? 君にゃ、わかっているんだろ?
須永 僕にはわかりません。
若宮 だって、君はもうとうに死んでるんだと、さっき言ったろう? わしは、もう直ぐ死ぬんだ。恐ろしい。……わしはどうすればいいんだ? 
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