間――黙つてゐる父子。右奥の少し離れた所でガーン、ベリベリと大きな物音。音の度にシヤンデリヤが顫へる。この物音は最後まで断続する。
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彦一 ……なんでも、向うの端から取壊しにかかるつて、先刻階下でさう言つてたな。
彦六 ふん。……彦一……ぢやあ、お前の赤んぼは、私が名前を付けてやるかなあ。
彦一 うん、一つ頼むよ、父つあん。
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ミル戻つて来る。開かれたドアから、階下でお辻とアサが猛烈に口論してゐる声。
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ミル 白木も鉄造も下にはゐない。
彦一 あれは、なんだ?
ミル アサさんとお辻とが喧嘩してゐるのよ。二人とも鉄造さんのおかみさんになるんだつていつてね、スタンドの所で掴み合つてらあ。
彦一 ハハ、さうか……さうだつたな、父つあん、お辻さんも連れて行くんだらう?
彦六 うつちやつて置け。どうせ金を掴めば向ふで逃げ出そうとしてゐた女だ。
彦一 遠慮をするなよ、父つあん。まだ入用だらうが?
ミル アハハ、私に気兼ねしなくたつていいわよ。
彦六 もう、いらんよ、コリ/″\だ。
彦一 いらんのか?
ミル いらんのか? お父つ
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