ら２字下げ］
客二、返事をしないでニヤツとする。
［＃ここで字下げ終わり］
お辻 （笑顔を見て、不意に相手を認め、思はず立上る）あ！ 彦一！
白木 え？（お辻と客二を見較べてゐる）
鉄造 彦一さんだ！（呆然と見詰める）
［＃ここから２字下げ］
向うを向いて寝てゐた彦六が、ウツ！ と言つて此方を向き、客二を見るや起きあがる。無言で見合つてゐる父と息子。
間。
［＃ここで字下げ終わり］
鉄造 ……変つた。……今の今迄気が附かなかつた。
［＃ここから２字下げ］
ミル、カーテンの蔭から抜身を持つて飛び出して来る。上り端に立つたまま兄を見詰める。怒つた様にムツとした顔。刀が手から落ちる。
［＃ここで字下げ終わり］
ミル あゝ、兄さん！
彦一 ……大きくなつたなあ、お千代……（ミルの左手に目を付けて）ああ、いけねえ、斬つたな。
ミル なに、かすつただけだ。
彦一 どれどれ。（腰から手拭ひを出して裂く）つまらない物をいぢくるから、怪我をするんだ。（ミルの指をしばつてやる）
［＃ここから２字下げ］
鉄造が白木に、しきりと耳打ちをしてゐる。
［＃ここで字下げ終わり］
彦一 痛いか？
ミル 痛くなんかない
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