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鉄造を後に残してトントン階段を昇つて行く。鉄造あわてて外へ出るが、間に合わない。女給アサも鉄造につゞいて出て来て彼の背後に立つ。
[#ここで字下げ終わり]
鉄造 (身をめぐらす)おゝ……なんだよ?
アサ ……(鉄造の顔を見詰めてゐた後)お辻が田所さんと出来てしまふと、あんたが困るんでせう、だから、あんな事言つてミルさんを、けしかけるんだ。へん、どつちがあやしいか判つたもんぢやない、あんな糞婆あの尻の匂ひをかいで廻つて――
鉄造 なにを言ふんだ、お前――
アサ (相手の胸倉を掴む)私をどうしてくれるんだ! おめえさは、おらを一杯ひつかけた積りだべさ! この……
鉄造 おい、なんだい、まあ、こんな所で、なにを又――
アサ ぢや内に入つてたんと話すよ! (と相手を引つぱつてドアを押して店にはいる)はじめあんた、おらに何んと言つた? ねえ! こんど出来る食堂の酒類の事は一手に引受けてやる様にチヤンと約束が出来てゐるから、さうなつたらあたしを正式の女房にしてやつて、そいから女給の取締りにしてやつて!
鉄造 (キヨロキヨロ店内を見廻し、あわててゐる)なにを言ふんだ! こら! おい
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