辻てえ女は、なにをするか知れたもんぢやありませんよ。あんたあ気が附いてゐないかも知れないけど、田所君の事ですよ。あの女は、これはと眼を付けたが最後、どんな男でもモノにしてしまふんだからね。
ミル それが、どうしたの?
鉄造 だから、気を附けなくちやいけませんよ。
ミル へーん、お辻さんの方で惚れてんのか?
鉄造 まあ、そんなものかね。
ミル だつて、あの女はあんたといい仲なんぢやないの?
鉄造 じよ、じよ、冗談を言つちやいけない! 私は、あんたの為を思つて――
ミル 修さんは、あたしに惚れてんのよ、おあいにくさま。
鉄造 ……だけどさ、相手はお辻だ。田所君が気が弱くつてウブだと来てますぜ。
ミル そうよ、だから私、好きなんだわ。
鉄造 (手の平で額の汗を拭く)いや、手離しだねえ。だからさ、蛇に見込まれた蛙でいつなんどき……でせう? だからさ、私あ……
ミル フン、修さんが私よりもお辻さんのことを好きならばお辻さんも取ればいいぢやないの。私、心配なんかチツともしやしないのよ。一体、話がある話があるで黙つて聞いてゐりや、ろくでもないことばつかり……あたしやもう行くよ。馬鹿々々しい。
[#こ
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