ですよ。
彦六 さうか、ハハハ、どうだもう一つ、あゝもう無いか。(酒瓶を振つてゐる)


[#3字下げ]第二幕 階下の酒場[#「第二幕 階下の酒場」は中見出し]


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近く閉店の予定で、さびれ切つてゐる。右奥にスタンド、その横から奥の居間に行ける。左側にしきりの壁、一番手前がスヰングドア、それを出た軒下にビリヤード旭亭の柱看板、その奥に階上への階段(下手寄り)。深夜の往来(下手奥)の、見通しの利かない暗い中に人影が時々ウロウロする。店内には客が二人。一人は洋服の三十四五の男でベロベロになつて唄つてゐる。もう一人は奥の壁の方を向いてテーブルに頬杖を突いて飲んでゐる。汚い背広に半ズボンに黒い巻ゲートルに靴の、チヨツトした土工と言つた後姿。店内の家具の全部に、小さい紙札がベタベタ張つてある。レコードが鳴つてゐる。――女給アサが酔つた客の正面、入口の柱にもたれ、ドア越しに往来の方を覗いてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

客一 (レコードに合はせてデタラメを唄ふ)あらよいよいよいと――おい君あ、なんで外ばかり見るんだ? さては色男が来たな? どれどれ、どうなんだ。(覗く)
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