よ。
お辻 だつてみんな内証が苦しいから、仕方無しですよ。
彦六 そりやさうさ。だから尚の事だ。私がかうして居残つてゐるのも、自分だけの事を考へるからぢやない。立退いた連中に、もう少しづつでも取つてやらうと思ふからだ。
お辻 この上まだ取らうつて言ふんですか? 呆れたね! そんな法外な事を言つて見たつて、どうせ此方の負けだ。
彦六 ぢや、思ひ切り負けて見ようか。
お辻 フン、あれだ。三多摩自由党の生残りですか? おはこだ。自由党だか不自由党だか……あなたが自由党騒動で三四人もの人を叩き斬つても、二年や二年半でことが済んだ御時世とはわけが違つてきてますからね。
彦六 そんな事を誰も言つてやしないよ。
お辻 私達は、そいで、どうなるんです?
彦六 だからかまはんから私だけ置いて、どこかへ行つてくれと言つてるぢやないか。
お辻 ミルさんは、ぢや?
彦六 ……お千代は嫁にやる。
お辻 へーえ?
彦六 ……ハハ。田所さんは、おとなしいが、まつとうな男らしいぢやないか。あんなのがミルにや良い。ケガがなくてな。(階下で誰かがわめき唄ふ声)なんだい、あれは?
お辻 鉄造んとこで、客が酔つぱらつてゐるん
前へ
次へ
全64ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング