ありやしないぢやないか! 裏通を行くと怖いから、大《おもて》通りを行くんだなんて、大廻りをさせてさ、世話が焼けるつちや、ありやしない。(言ひながら又洋服を脱ぎにかかる)
修 駅迄行つたの?
ミル うん。あら、お父さん、起きちやつた。
彦六 うむ、どうも寝飽きたよ。
ミル ……なにを笑つてんの? 私の顔になにかくつ附いてる? んぢや、何をそんな、やたらにニタニタしてんのさ、お父さん? ……あら、どこい行くの?
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父親は立上つてカーテンと押入れの間の通路へ歩いて行く。
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彦六 久しぶりに、急に一杯飲みたくなつた。肴を買つて来るんだよ。うまい所へチヤンソバが通る。たまにや少し外へ出ないと毒だ。ハハハ……。
ミル ぢや私が買つて来たげるよ、何もお父つあんが行かなくたつて。第一、なんで不意に酒なんか飲むの?
彦六 まあさう言ふな、身祝ひだ。
ミル 身祝ひ? へへーん、こうして内ぢや追立てを食つているのに? 先刻は私わざと黙つていたけど、表をウロウロしてんの、やつぱし白木の子分らしいわよ、いつなんどき飛び込んで来るかわかりやしないつて言ふのに。
彦六
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