修を見て)それに引きかへてあれの兄貴と来たら、もう仕様のないゴロンボーだ。彦一と云ひましたがね、何処かで、もう死んじまつたかも知れん。大体、親父の私が少し口小言でも言ふと、それが気に喰はないと云つて、黙つてとびかかつて来ようと云ふ代物だ。
修 はあ。
彦六 ……しかし、なんですよ、此処のお辻にや用心しなきやいけませんよ。あれは、いけない、まるで、まあ女郎蜘蛛のやうな奴です。仮りにも自分の女房みたいにしてゐた女を、こんな言ひざまは無いけど、これ迄チヤンと手切れを渡して、何度追払つたか知れないんだ。金が無くなつて男に捨てられると必ず舞ひ戻つて来る。この前なども、つい其処のガレーヂの運転手と一緒にね、此の内の有金をさらつて逃げて行つた。やれ/\と思つてゐると、物の二月もしたら寝巻き同然の姿でシヤーシヤーとして帰つて来ましたよ。ハハハゝゝゝ。最初ゲーム取りで来たのを、一時の迷ひとは言ひながら、ついそんな事にしてしまつたのが私一生の不覚です。ハハハ。
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階段に靴音がして、ミルが駈け上つて来る。戸外で支那ソバ屋のラツパの音。
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ミル なんだい、なんでも
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