さん、ひどくおどしに掛けますねえ、ハハハ、さては白木さんから頼まれたね。
鉄造 (怒つたやうな口調で)じよ、冗談云つちやいけませんよ。な、なんで、あんた、これだけこちらさんに忠義を尽してゐる私をつかまへて――
彦六 いやあ、これは冗談ですよ。ハハ、どつちせ、まあかうして自分でごろ/\して居るぶんには、まあ誰にとがめられる事も無からう。追ひ出されりやノタレ死をしなきやならんからねえ、人様の畑の物を盗み食ひをしてゐる雀とは違ふから、案山子にびつくりして逃げ出すことも無からう。
鉄造 なんですつて、案山子ですつて? ぢあ、旦那は私のやつてゐる事を――
彦六 たとへ話だ、気にしちやいけません。とにかく、だから、あんたの方は、私にはかまはず引払つて下さいと云つてゐるんだ。事実、かうした病気で動きたくも動けはしないし、なさけ無い話さ。
鉄造 そ、そ、そんな意固地な、ねえ正宗さん、私あ、あなたの為めを思つて――
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階下の酒場の女給のアサが急いで入つて来る。廿四、五の野生的な女。
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アサ (戸口に立ちはだかつたまま眼はお辻の顔を射抜くやうに睨み詰め〈据ゑ〉
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