てゐるんだから、アツサリ私等と一緒に立退いて下すつてもいいぢやありませんか! それをかうしてギリギリのどたん場まできておいて今さら……(オロ/\声である)
彦六 さうさなあ……だが、あんたは何もこつちにこだはらずに立退きあいいぢあないかね。
鉄造 そ、そ、それだ。直ぐに、それだ。今更になつて、そ、そんな薄情な事を――あすの朝早くでも、御一緒に早々引払ふやうに、ひとつ、考へて見て下さいよ。お願ひですよ。大体、先方から頼まれてお百度を踏んでやつて来てゐる白木と云ふ男の正体を、旦那知らないから平気でゐらつしやるけど、白木軍八郎と云へば新聞も持つてゐれば多勢の子分も持つてゐるし、かうした事にかけちや鳴らした事件屋なんですよ。あの男の手にかかつたら、万事おしまひですぜ。ごらんなさい、あれだけ居坐らうと申合せをして居た此の建物中の小店十一軒と云ふもの、白木が乗り出して来たら、ひとたまりも無く立退いてしまつたぢやありませんか。
彦六 話はおとなしさうな人だがな。
鉄造 そいつが曲者なんでさ、腹の中はどうしてどうして、山の手一帯の土地家屋のブローカー仲間では「蝮蛇《まむし》」で通る男ですよ。
彦六 鉄
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