人の客があるきりだ。却つて賑やかでいい。しつかり仕込んで下さい。
お辻 そりやさうと、どうするの? こうして今まで腰を据ゑてゐるのは、もう、うちと階下の鉄造さんとこの酒場の二軒だけですよ。それも鉄造さんちぢや、うちさへ立退けば今夜にも一緒に引払ふと言つてんぢやないの、全体この先どうするつもり?
彦六 それを私に聞いたつて、わかりやしないよ、自分の内だから、かうして居る迄さ。
お辻 (ヂレて)チエツ、いやんなつちまふ。それに借金も借金だしさ。あたしや――
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そこへ左のドアから、四十七、八の血色の良い井伏鉄造があわててキヨロキヨロしながら入つて来る。
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鉄造 ……お辻さん、あの、チヨツト――
お辻 どうしたの?
鉄造 松田さんの委任状を持つた仕事師がやつて来てね、この家の向うの角から取壊しにかかるから、さう思つて呉れと云つてるんだ。
お辻 へえ? こんな夜中に?
鉄造 昼間だと近所が迷惑するからと云ふんだよ、ねえ旦那、どうしたらいいんですかね? え?
彦六 ……さあ。……困つたねえ。
鉄造 困つたぢやすみませんよ、先方ぢや、ああして解つた話をし
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