それ自体としてたくさんの楽しさや喜びをともなうものです。苦しいことよりも、たのしいことのほうが、たぶん多いことです。われわれにも、たやすくできることなのです。
そこで、歩くということは、どういうことだろう?
まずそれは、現在自分がかかずらっていることやもののいっさいを捨てて、自分の身体ひとつでそこから抜けだしていくということです。
そのときの自分は、歩いていくということに必要のない、ムダなものは一つも持たないが、必要な最小限のものだけはかならず持っているということです。つぎに、はきものその他の足ごしらえをしっかりするということです。それから、健康状態にある程度自信が持てるということだし、飲食物や気温や天候に気をくばって健康をたもつための注意を怠らぬということです。それから、しだいに歩み進むにしたがって、自分にとっての親しい者を失い、見知られぬ人として見知らぬ人びとのあいだに自分を投げだし、孤絶し、さびしくなっていくということです。そのさびしさの中で、いやでもあなたは見知らぬ人びとや見知らぬものや自然を見てすぎながら、その人たちやものや自然から、言葉や形や色でもって語りかけられると
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