っている程度のものです。じつは私は敗戦と同時に、何をどう考え、何をどうしたらよいか、まるでわからなくなってしまって、ウツウツとしてその夏から秋をすごしたのですが、思い疲れたすえにヒョイとどこかへ行ってみる気になったのでした[#「なったのでした」は底本では「なったのでた」]。
 そのころの例にもれず、列車はおそろしく混んでいて、もちろんすわれはせず、窓のそばに押しつけられて身動きもできないので、息ぐるしく不快でした。しかし発車して一時間もすると、それはそれなりに、身辺が落ちつきなごんできて、小仏《こぼとけ》のトンネルを越えたころからは窓の外を眺め入る余裕もできてきました。二時間ばかりたち、勝沼《かつぬま》から塩山《えんざん》あたりの山村が窓の外をユックリと走りすぎていきます。それまでに幾度も見てすぎたり、ところどころには列車をおりて滞在したところもあるし、別に目新しい景色でもありません。だのに私の目は、山や川や、ボツボツと光っている農家の白壁や、ことにそれらのあいだに、歩いたり働いたりしてユックリと動いている小さい人間の姿を、食いいるように見ていました。
 そのうちに、私のうちに自分でも
前へ 次へ
全15ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング