びっくりしたくらいに出しぬけに、そして、はげしい一種の気持が突きあげてきました。それは観念ではないから、言葉にして説明はできません。感動とか啓示とかいうものかもしれません。それは、ひじょうに深く、澄みとおって、鳴りひゞくような調子を持ちながら静かな静かな音楽のようなものでした。私はほとんど呆然として、しばらく何も考えず、われを忘れていました。「ああ、日本はここにあった。日本はいぜんとしてここにいる。自分がこれがこんなに好きなのだ。これさえあれば自分はなんとかやっていける。」といったようなことを思ったのは、しばらくたって我れにかえってからでした。そして、それをキッカケにして、私の中の混乱が整理されはじめました。
 これはホンの一例です。もし私という人間の中に、少しでもすぐれたものがあるとしたら、また、もし私という作家の仕事の中に少しでもよいものがあるとしたら、それらが皆、歩くことや旅することと無関係に生れたりできたりしたものは一つもないような気がします。
 他の人びとはどうでしょうか? 君はどうですか?
 歴史をふりかえってみても、西洋でも日本でも、えらい思想家や宗教家や芸術家や政治家や
前へ 次へ
全15ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング