るコンパクトを抜き出し、ソツと開いて、怖いものを覗くやうにして鏡を見る。チラツと見たつきりで、ハツとして鏡をどけるが、又暫くして覗く。今度は眼を釘付けにされたやうにジーツと鏡の中を見詰めてゐる。……衰へてしまつた容色。……急に四辺をキヨトキヨト見廻して、五郎も小母さんも現はれさうに無いのを見すましてから、手早くパフで白粉を顔にはたく。自分では無意識らしいが、白粉の塗り方が頤や襟に濃く、いつの間にか京子の白粉の塗り方にソツクリになつてゐるのである。……塗り終つて、又鏡を覗く。……少し斜めにしたりしてジツと覗いてゐる間に顔が引歪がんで来る。手が顫えて来る。……声を出さないで自嘲の笑ひ、笑つてゐる間にベソをかいて、タラタラと涙があふれて来る。でも涙を拭くのを忘れて、寝てゐて自然に見える鴨居の辺をジツト睨んで動かない。……出しぬけに手のコンパクトを投げる。それは病室と玄関との間に一枚だけはづさないで立つてゐる襖に当つて、ピシツ! と音を立てゝ落ちる)
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小母 (その音を呼ばれたものと感違ひして)はい、はい、(道具を片付けながら)直ぐ行きまつせ。
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