てしもたんではないやらうか?
美緒 さうぢやないの、今度の日曜あたり見えるさうよ。東京から伊佐子さんも来るさうだから、此処で赤井さんと落合ふ事になるわ。
小母 どすかいな? でもいくらお上の事でも、それぢや、あんまりではないかいなあ。
美緒 いえ、だから、この日曜には赤井さん御夫婦が来て下さるのよ。
小母 どすかいな? でも日曜日に、東京の御親類の皆さんがお見舞ひなんぞに来て下さるのも、もうよろし! 皆さんがお見えると、後、奥さんがキツトお加減が良う無いのどすさけ。(話がトンチンカンになつてしまふ)
美緒 さうぢや無いの、あのね……(自分の声では話が通じないのでガツカリして、再び小母さんの耳を引つぱりにかゝる)あのね、兵隊さんは、此の日曜に……。
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 言つてゐる所へ、湯殿のガラス戸が、ガラツと開いて、運動シヤツ一枚にサルマタ、手拭で向ふ鉢巻をした久我五郎が出て来る。一仕事終つた後のホツトした気持で何か旧い外国の民謡を唸るやうな声でハミングしながら。両手はポスターカラアで汚れ、顔や胸から汗がタラタラ流れてゐる。湯殿をアトリエ代用にして絵を描いてゐたのである。しつかり
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