ね、やつぱり官展になつてから特選級になれるやうな大物で、しかも新しい物の描ける奴が欲しいんだよ。……そいで、君に、そのなんだ、来て欲しいんだと僕は見てゐる。
五郎 ……なる程、持駒か。
尾崎 わかつただらう、どうだい?
五郎 わかつた。
尾崎 僕は洗ひざらひ言つちまつた。今度は君の番だ。なんで君が嫌がるか、本当の所を聞かしてくれよ。
五郎 君が言つちまつたよ。
尾崎 なんだつて?
五郎 ハツハハ、俺が水谷さんの所に行きたく無い本当の理由は、今君がスツカリ話したんだ。水谷さんが俺を欲しがる理由が、そつくりそのまゝ俺が水谷さんの所に行きたくない理由だ。嘘は言はない。俺あ、人の持駒なんかになるのはごめんだ。自分がホントに尊敬してゐる奴なら、そいつの足を俺あ舐めてもいゝ。俺あ未だ未だ画にかけては青二才だ。自分よりも偉い画を描く奴の前にや、いくらでも頭を下げる。しかし水谷さんなんかの画に頭を下げるわけにや行かん。第一、俺あもともとヱコールつて奴がしんから嫌ひなんだ。小さく固まつた一つ一つのヱコールなんて、そんな、そんな事のために男が一生かゝつてムキになつて修業をする価値があつて、たまるかい! 俺
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