れはわかるよ。毛利さんはズツと以前から水谷先生の所へ行つてゐたんだから、今度君が行けば、どうせ一応は毛利さんの下風に立たなきやならんだらうからね。しかし、そんな事を言つてゐた日にや人間どうにも運命の打開のしようは無いと思ふんだ。毛利さんだつて君んとこに通つてゐた頃に較べると偉くなつてゐるよ。良い画を描くやうになつたぜ。
五郎 ……毛利は、以前から良い画を描いてゐたよ。
尾崎 そら、君は直ぐにそれだ。……大体毛利さんがこの事では君宛に何度手紙を出しても君はロクに返事も出さないさうぢやないか。そいで、手紙ではラチが開《あ》かないと言ふんで、こうして説き付けに僕をよこしたりすると言ふのも、以前から受けた好意を徳としてゐるからだよ。そんな風にこじれて受取るのは、どうかと思ふんだ。
五郎 ……そいだけの好意が有れば、自分でやつて来たらどうだい? 俺達が東京から此処へ引越して以来、毛利は見舞ひに一度も来やあしないぜ。いや、うらんでゐるんぢや無い。画描きも羽織りが[#「羽織りが」はママ]良くなれば忙しくなるのは俺だつて知つてる。その点はむしろ、俺あ毛利のために喜んでゐる位だ。
尾崎 嘘だ。君はひがん
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