ると、今やつてゐるのは注射だけなのかい? ……すると、なにかね、お医者の方は、まあ一言で言ふと、差当り手当なんぞしないで、いえさ、見離したとか何とか言ふ事は無いだらうけど、でも此の間来てゐた先生は、たしか四人目の人だろ?……どう言ふのかねえ? 五郎さんが、あんまり気むづかしい事を言ふんで先生達が手を引いてしまふんぢや無いのかねえ?……(美緒が石の様に返事をしないのでしかたなく小母さんに、少し声を大きくして)ねえ、小母さん!
小母 (耳の遠い人の常で、相手の唇の動きをマヂマヂ見てゐたが)へえ、さうですとも。お医者様のお薬なんぞ、あきまへん。ホンマの一時押へだけで、あんなもんで病気は治りまへんえ! 気をシツカリ持つて、おいしい物をターンと食べる事どす。どうしてもお薬飲みたければ、縞蛇を黒焼きにして食べたらよろし。
恵子 蛇を? まさかあ! (ゲラゲラ笑ひ出す)
小母 (自分も笑ひ出しながら)お笑ひやす! でもな、わてが十七の時に肋膜炎患うて、蛇食べて治つたんですよつて、それが何よりの証拠どす。ハツハハ、でもな、ロクマクエンは治つたが、治つた時にほ、髪の毛えが、みんな抜けてしまうてな、キレー
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