そのまゝで、永い間。
[#ここで字下げ終わり]

小母さんの声 (此処からは見えない台所で)……ふえゝ! まあま、出しぬけにビツクラするぢやないかいな! いつもその通りですなあ、あんたはん! 声も掛けんと、だまあつて入つて来てヌーと突立つておいやす。ホンマに……(あとはハツキリ聞えなくなる。この小母さんは、かなりひどいツンボのために、口の利き様がスツトンキヨウに高調子だ。京都生れだが、中年から大阪や東京や田舎などに移り住んだせゐで、いろいろな言語が混り込んで、不思議な京都弁になつてしまつた。誰か台所口に訪ねて来てゐる声がゴトゴトする。それを相手に喋つてゐるらしい)……アツハハハ、ハハハ、そんな事お言ひやしても、私はツンボーではおまへんで、ハハハ、どれどれ、なにが有るか見せとくなれ。ホウ!
美緒 ……(その方へ耳を澄ましながらニコニコしてゐる)
小母さんの声 ……(ハツキリしないまゝに続いてゐたが、再び聞えはじめる)そないな片意地な事言はゝると、お嫁さんの世話してあげまへんえ! こゝの奥さんの生徒さんには、綺麗な方がターンとお居やすからな、今度めお見舞ひにおいなした時に、あの魚屋さんチヨ
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