ヨクヨする事あ要らん。
美緒 ……万葉……また……読んで……。
五郎 疲れてゐるから、後にしよう。……少し眠つたらいい。
美緒 ……いゝの……読んで……。
五郎 さうか、……ぢや、眠くなつたら、聞きながら寝ちまへ。(本を取り上げて開ける)……えゝと、(朗読)人麻呂《ひとまろ》。ぬばたまの黒髪山の山菅《やますげ》に、小雨降りしき、しくしく思ほゆ。……ぬばたまのは枕言葉。菅の草に小雨がシトシト降つてゐるのを見てゐると、恋人の事がしみじみ想はれると言ふんだ。ぬばたまの黒髪山の山菅に、小雨降りしき、しくしく思ほゆ。……同じく。大野《おほぬら》に小雨降りしく木《こ》のもとに、時々より来《こ》、吾《あ》が思ふ人、いゝな! 野原に小雨がシヨボシヨボ降つてゐる、その木の下に自分は今立つてお前の事を考へてゐるが、時々はお前も此処にやつて来ないか。大野《おほぬら》に小雨降りしく木《こ》のもとに、時々より来《こ》、吾《あ》が思ふ人。……どうした? どうかしたのか? おい! おい! 美緒! (声が次第に高くなる)
美緒 ……(昏睡状態に陥ちてゐる)
五郎 おい、美緒! こら! (いつぺんに真青になつて患者の脈
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