るな! (はじめはそれ程でも無かつたが、喋つてゐる中に本気になつて手をブルブル顫はせてゐる)
美緒 ……そんな……私に……怒つたつて……。
五郎 (我れに返つて)……要するにな、俺の言ひたいのは、万葉人達の生活がこんなにすばらしかつたのは、生きる事を積極的に直接的に愛してゐたからだよ。自分の肉体が、うれしくつてうれしくつて仕方が無かつたのだ。逆に言ふと、来世だとか死んだ後の神様だとか、そんなものを信じてゐなかつたからこそ、奴さん達は今現に生きてゐる此の世を大事に大事に、それこそ自分達に与へられた唯一無二の絶対なものとして生き抜いた。死んだらそれつきりだと思ふからこそ此の世は楽しく、悲しく、せつない位のもつたい無い場所なんだよ。死ねば又来世が有つたり、変てこな顔をした神様がゐてくれたりすると思つたら、此の世はなんの事あ無い手習い草紙みたいなもんだ。いゝくら加減に書きつぶして置けばいゝと言ふ気にもなるんだ。神だとか来世だとかを考へ出したのは、小さく弱くなつた近代の人間の謂はゞ病気だよ。そんな事を考へて置かないと此の世に生きる事の強烈さに耐え切れなくなつちやつたんだ。病気だ。俺達はみんな病気
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