…(クスクス笑つてゐる)
五郎 ところが丁度恋人の家の前までやつて来たら、雪だか雨だかパラパラ降つて来はじめた。きゞすと言うのは雉《きじ》だ。鶏《かひ》といふのはにわとり。パラパラ降つて来て、野山では雉が鳴き、家ではにはとりが鳴きだした。もうはやウツスラと夜が白んで来た。早く戸を開けてくれ、入つて寝るからと言ふんだ。女は勿論家の中にゐて、眠りもやらず待つていたんだね。……(朗読)隠口《こもりく》の泊瀬《はつせ》の国に、さよばひに吾《あ》が来れば、たなぐもり雪は降り来ぬ、さぐもり雨は降り来ぬ、野《ぬ》つ鳥|雉《きぎす》はとよむ、家つ鳥|鶏《かひ》も鳴く、さ夜は明けこの夜は明けぬ、入りて吾《あ》が寝むこの戸開かせ。反歌。隠口《こもりく》の泊瀬《はつせ》小国《をぐに》に妻しあれば、石は履めども、なほぞ来にける。隠口の泊瀬小国に妻しあれば、石は履めども、なほぞ来にける。……わかるかい? ね、実に単純に歌ひ放してあるぢやないか。現世主義だ! 現実主義とか何とか理窟ばつた、ヒナヒナしたもんぢやない。俺達の祖先の単純で強い肉体と精神が自然に要求するまゝのものだ。うまく言ひ廻して美しい歌を作らうなんぞ
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