五郎 わからん?
比企 君は、もしかすると医学と言ふものが、人間の生命の全部に就て責任が有るやうに誤解してゐるんぢやないかな。
五郎 さうかも知れない。しかし、そんな誤解を植ゑ附けて来たのも医学です。いや僕あ僕一個の事を言つてるんぢやない。一般社会の事を言つてゐるんだ。社会にさう信じ込ませたのは医学だ。
比企 違ふね。社会――つまり人間の性質にそんな妄信性が本来有るんだ。科学に責任はない。
五郎 あなたは抽象された科学を考へてゐる。ところが、そんな抽象された科学なんか世の中に存在しない。僕が医学と言つてゐるのは医者と言ひ換へてもいゝんだ。
比企 医者は、そりや、自分が必ず病気は治せる様な顔をしてゐるよ。営業だからな。信用を作りあげて置く必要がある。……しかし、もうこんな話は止さう。なんだか馬鹿に寒くなつて来た。君の言つてゐるのは、哲学か宗教の範囲だよ。僕あ科学者だからな。よく解らんのだ。……(怒つたやうに自分を睨みつゞけている相手の眼を避けて)全体君は、人間と言ふものは結局一人残らず必ず死ぬ事に決つてるのを忘れてゐるんぢやあるまいね?
五郎 ……?(と、はじめ何と言はれたか理解出来な
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