間に落着いてゐる事なんか出来ない、自分だけ安全だとは感じないと言つてゐるが、そいつは正直さうだらうけど、だから画は描かんと言ふのは行き過ぎだよ。フラフラしながら描いたらいゝぢやないか。
五郎 そんな事あ無い。今の俺に何が描けるもんか。
赤井 すると全体君は何がしたいんだい? 君は生れつきの画描きだ。それが画を描かないで、何をするんだ?
五郎 俺も戦争に行きたい。
赤井 そら、そんな馬鹿な事を言ふんだ。……行くべき時が来れば否応なしに行かなきやならんのだ。第一君の考へてゐるものと、実際の事との間には殆んど紙一重の違ひだけど、全体を根本的に変へてしまふ違ひが有るんだよ。そいつあ僕が実際に於て経験した事だからハツキリ言へるんだ。十中八九自分が行くものと決めて色々考へてゐた時は、それで全部が整理されて覚悟は出来たと言ふ気がしてゐた。それが、いよいよ行くと決定された瞬間に、全部がもう一度ガラリと変つてしまふんだよ。ホンの紙一重だ。しかしそれが全部を変へてしまふんだよ。そしてそいつは、前以て予想して置くことなんぞ絶対に出来ないんだ。その時をキツカケにして、自分の頭の中も外界の事も以前のまゝでゐなが
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