うしなあ。
五郎 いや、そんな時はどんな事が有つても会ひに行くよ。
赤井 いや来てくれても、多分ロクに話も出来ないだらうと思ふんだ。最後にもう一度外出できるらしいけど、さてどうなるかわからんしね、仮りに出来てもその際も伊佐子の事やなんかで東京の家の者に会ひに行かなくちやならん。……まあ今日が左様ならだね。
五郎 ……さうか。
赤井 ……美緒さん、どうですか、その後?
五郎 うん、まあ、割に良い方だ。
赤井 そりや、いゝ。さう言へば、なんだか元気さうになりましたよ。
美緒 ……伊佐子さんは、どうして遅いんでせう?
赤井 又家でグズグズ言つてゐるんでせう。なんしろ僕が行つても、伊佐子とはユツクリ話しも出来ないんですからね。そいでまあ、美緒さん病気の所へ御迷惑をかけて済まないけど、かうして此処で落ち合はさうと勝手に決めちやつて。
美緒 いえ、そんな。私なら少しも構ひません、どうか御遠慮なく。
五郎 お前チツト黙つて居れ。
美緒 フフ、あなたの事と言ふと久我は直ぐに焼餅を焼くんですの。
赤井 ハツハハ、いや、どうも済みません。
[#ここから2字下げ]
 そこへ小母さんがビール三四本と、つまみ物を載せた盆を運んで来る。
[#ここで字下げ終わり]
小母 さあさ、お二人とも此処へ来てお坐りやす。そこは暑い。(キチンと坐つて赤井に対して辞儀をして)ようおこしやす。
赤井 やあ。小母さん相変らずお元気ですね?
小母 へえ。五郎はん、あんたはんのおいでやすのを、えらい待ちこがれてゐやはつたのどすえ。なあ奥さん! (美緒うなづく)まるで、コイービト待つてる若いし[#「若いし」に傍点]とそつくりや言ふて奥さんと話してゐたとこどす。
赤井 なあんだ、ハツハハ、ハハハハ。
五郎 (これも笑ひながら、ビールのせんを抜きコツプに注いで)さ、赤井、あげてくれ。
赤井 なんだい俺あ飲めないよ。知つてゐるぢやないか。
五郎 いや、今日は飲め。
赤井 だつて、一杯やると俺あフラフラになつちまうぜ。
五郎 いゝから飲め。ホントは美緒にも飲ませたいけど、此奴は病人だからな。……フラフラになつたつていゝよ。小母さんも――(小母さんにもコツプを握らせる)
小母 いえ、わては――
五郎 (小母さんの耳に口を寄せて)赤井がね、小母さん、間もなく戦地へ行くんです。それを送るんですから。
小母 さうだつか! それは――。
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