、その五日前の発作の原因が、どうもハツキリしないんでねえ。
五郎 いや、それなら有るんだ。原因は有るんだ。チヨツト精神的にシヨツクを受けた事が有るんですよ。
比企 さう、それなら、それでいゝが。でも、そんな事今後避けてくれないといかんなあ。……とにかく別に変りは無い。処方は一昨日と同じでいゝ。安静を守つて貰ふ。流動物を、さう、量は好きなだけ。……ぢや、又来るから、これで僕は。
美緒 ……ありがたうございました。
比企 これから泳ぐんですよ。かなり冷いけど、仕方がありません。でも、もう若い奴にはかなはんね。京子の方が僕よりズツと泳げるんですよ。ハツハハ、(五郎に)君も行かない?
五郎 僕は後で……。
比企 さう、ぢや……(気軽るにヅカヅカ立つて、小母さんがペコペコして下駄を揃へたりしてゐるのも殆んど無視して出て行つてしまふ)
小母 ……(美緒に)ホンマに、いゝ先生どすなあ!
美緒 (それにコツクリをして見せてから五郎に)ホントに純粋な科学者なのね? 診て貰つてもいゝ気持だわ。
五郎 うん。ハツキリしてるよ。自信も持つてゐるが、出来るのも出来る。福岡の医科大学はじまつて以来だと言ふからね。もう、とうに博士になつていゝんだが、論文なんか愚劣で書く気がしないと言ふんださうだ。
美緒 ……京子さん、なんだか、あなたに興味を持ちはじめてるんぢやないかしら?
五郎 馬鹿な事言ふな。……ハハ、さうだ。興味と言へば、変つた生き物がゐるから見てやれと言つた眼付きだね。
美緒 いえさ……。
五郎 そら、無言の行、無言の行。……赤井達はおそいなあ。……俺あチヨツトひと仕事やらうか。……よし。(立つて、手で美緒の額の熱を計つて、うなづいてから、ヅカヅカと廊下を通つて湯殿に消える)
小母 (それを見送つてから)……奥さん、お気分どうどす?
美緒 ……(コツクリ)
小母 (ニコニコしながら)こうんな所までペトペトに白粉塗らはつて、(と京子の真似)さうですわよ! はあ、さうですわ! こうどす。可愛らしいモダンガエルはんどすけど、えらい鼻が天井向いてはりまんなあ! アツハハ。(美緒がニコニコするのに満足して茶の道具や座蒲団を片付けに居間の方へ。そこでゴトゴト片づけ物をしてゐる)
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間。
美緒はジツと動かない。……やがて、ソロソロ自分の頬を撫でゝ見る。それから枕元に差し込んであ
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