厨川はおせいさんに自分の所へ帰れと言う、おせいさんは帰るのはいやだと言う。そこにどんなわけが有るのか、私ぁ知らん。あくまで当人同志の問題だろうじゃないか。
誠 すると、叔父さんは、ただそれだけの気持で――?
三平 そりゃ君、私ぁあの女が好きだよ。……昔のこともあるし――好きなことをかくす必要は感じないね。ふふ。……いずれにしろ、君、たかの知れた女一匹――
誠 ……ふん、叔父さんこそ、東洋豪傑風だ。
三平 そうかね、まあどっちでもいいや。だが、君ぁ又なぜそんなに気にするんだい? え?
誠 ……不愉快だからです。
三平 不愉快? なにが?……もしかすると、なんじゃないか……君もあの女がまんざらでもないんじゃないか?
誠 (鉛筆を握って印刷物を見ていた眼をあげて三平を見る)
三平 (ニヤニヤして)駄目だぜ、君みたいな若い者があんな女に引っかかっちゃ。マルキストがいっぺんに台なしになるよ。……あの手の女は、先ず蟻地獄――君みたいな身体だと忽ち命取りだぜ。ふふ……でも、その気が有りゃ、向うを張って見るか?(ひどく陽気になっている)
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(柴田が手にひとつかみの野菜を持って上手
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