うにつばの広い帽子をかぶり、歌声のノンビリさにふさわしくなく、なにか良くない病気で、もはや治すことの出来ない根深いやつを持ってでもいるように陰気な富本三平がポケットに両手を突込んでヒョコヒョコと入って来る)……お帰んなさい、三平叔父さん。
三平 や。(鼻歌のつづき)〔Engan~ado como a un nin~o.〕
双葉 (床下を覗きこんで)お父さん! お父さん!
三平 どうしたね?(アクセントが少し変である)
双葉 またお父さん、防空壕うずめてんの。
三平 そりゃ、いかん。これ、兄さん!(床板を足で踏む)ヘイ! 出て来い、こら!(ドンドン踏む)
双葉 お父さん! どうなすって? お父さん!
柴田 (床穴から首を出す。寝ぼけてキョロキョロと周囲を見まわしたり、眼をこすったり)う、ど、どうした?
三平 ユーこそ、どうした?(柴田の身体に手をかけて引き上げる)
双葉 (これも共に父親を引き上げながら)だめ、お父さん! あれほど言ってるのに!
柴田 いや、なに――(やっと我れに返って、双葉に助けられて椅子の方へ来ながら)びっくりした。――又、空襲がはじまったかと思った。――
三平 なにを
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