゚ていた末に、頭をさげる。双葉、急に少女らしくはにかんで、黙ったままキクンとお辞儀をする)
誠 どこへ行ってたの?
双葉 ……うん、買い出し。(言いながら、兄の方を向いた顔の右半面の、こめかみの辺から二寸位の巾で咽喉の右側へかけて、薄紅く光った、むざんなひきつり疵。左半面の美しさとギョッとするような対照をなしている)
誠 うまく買えたかね?(せきをする)
双葉 アブレ。……どうなすって、兄さん?
誠 うん……(せきが続けざまに出る)
双葉 お水、あげましょうか?……(下手の炊事場の方へ行きかけて、ストンと膝を突いてしもう)
誠 (せきの中から苦しそうに)いいよ。すぐおさまる。
双葉 ……(立ちあがってバケツの方へ。黙って食器棚の上からコップを取って水をつぎ、兄の所へ持って来る)はい。
誠 (半身を起して水を呑む。せきが少しおさまる)ありがとう。
双葉 お父さんは?
誠 知らん。
清水 先生は、この下にいらっしゃるんです。
双葉 あら、また! よして下さいって、あんなに言っといたのに。(床穴の方へ)
清水 僕も、そう言ったんですが――僕は、学校の、先生の講義を聴いています清水――
双葉
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