って動物的な動作を一同が見守る。圭子は顔をそむける。誠は無関心な顔で汁をすする。せい子は目をふせる。双葉は子供のようにヒタと見入っている)
欣二 (低く)畜生!
三平 どうも、やあ! (一息に飲んだ酒に激しくむせる)プッ! うまい、クシッ! ゲエ! ハハハ。(やつぎばやにもう一杯ついで、再び口をとがらせる)
柴田 ……(汁椀を受取って一口すすりながらも若い男の方を見ている)どうも……どうしたと言う――?
欣二 (三平を睨んでいた眼を、その父に移して)いいんだ! よ、お父さん! 飲みなさいよ。これ、飲んでごらんなさい! (左手で自分のカラの椀を父の鼻の先へ持って行き、右手で酒瓶を三平の手からもぎ取って、ゴブゴブとつぐ)さあ!
双葉 駄目、お父さんは!
欣二 いいじゃないか、なんだい! そら、お父さん!
双葉 駄目ですったら! (汁椀をカラリと置いて、中腰に乗り出して欣二の左腕を掴む)
三平 フッ! (ピチャピチャと舌を鳴らして二杯目の酒を飲みながら)ヘッヘヘ! まあまあ、ええじゃないか、ええじゃないか、飲みたくない者は。
欣二 ええじゃない事ぁねえよ。ヘッ! (言いながら、その椀の酒は自分で飲んでしもう。そのカラの椀を今度は誠の方へ差し出して)兄さん、ひとつ。
誠 いいよ、僕ぁ。(汁をすする)
欣二 うまいよ!
誠 僕は飲めない。
欣二 飲めない? 冗談言っちゃいけない。(圭子に)じゃ、君ひとつ。
圭子 ありがとう。でも――
欣二 遠慮するなって。
圭子 でも、今日は、駄目なの。
欣二 へえ? ああそうか、ヘッヘヘ、でも一杯位いいだろう?
双葉 圭子さん、駄目だって言っていらっしゃるじゃないの兄さん! (欣二の左腕を掴んでいた手がすべって、欣二のワイシャツが[#「ワイシャツが」は底本では「ワイシャッが」]めくれて、その二の腕に、ガーゼでおさえてバンソウコウを張った所が現われる。圭子の話を思い出し、それをジッと見て)……なあに、兄さん?
欣二 ……なに、チョット、すりむいた。
双葉 ちい兄さん――私たちが、ちい兄さんの事、どんだけなにしているか――
欣二 離せよ。(腕を振りもぎって)フッ、アラアの神様か。まあいいよ。(立って若い男の方へ行く)おい君、飲みたまえ。(椀を差し出す)
男 ……(受取らず、一歩しりごみして、ヒョックリ、頭をさげる)
三平 食べる物は、もう無いのかね? いくらなんでも、これだけじゃ、どうも――
せい ですから――あの――明日になればなんとかいたしますから。
欣二 (男に)いいから飲めよ。(男又しりごみして頭をさげる)なんだ? どうしてそうペコペコするんだ? (男更に頭をさげる)
柴田 (三平に)また、なんだ、近頃、この順々に配給が悪くなって来ているから――
せい ここんとこ押せ押せに、お尻が全部集って来て――欠配が二十四五日続いているもんですから。――もう少し早いと闇市でチットはなんか買えやしないかと思うんですけど、なんでしたら私一走り――?
三平 どうする気だろうなあ政府は? これじゃ大部分の国民は遠からずして餓死じゃね。食物が間に合う頃になったら、金が無くなってら。やっぱり、のたれ死にか。助からんねえ。阿呆な戦争をやらかしたもんさ、全く!
欣二 (男の顔を見たまま)ヘッ、ガウチョが何を言う! おい、飲めよ。よう! ……(不意に男の頬をピシッとなぐる。なぐられてもポカンとして、頭をさげるのも忘れている男。それを見て更にカッとした欣二が、更になぐる)こら! なぜ、そんなに、ペコペコしやがるんだ! (又なぐる)
双葉 兄さん!(走り寄って兄の手を掴む)なによ、なにするの!
欣二 野郎! フー公、これなんだと思う? え? これ、なんだと思う?
双葉 (怒って涙ぐんでいる)なぜ、そんな乱暴するの!
欣二 (歯をバリバリ噛んで)よく見ろ、こいつを! え? ナリを見ろよ。眼つきを見ろよ。かかって来たら、どうだ? くやしかったら、俺にかかって来たら、どうなんだ? ポカーンとして、ヘッ!(双葉に押されて食卓の方へ)
双葉 ですから――だから――そんな、ちい兄さんが乱暴する事はないじゃないの!
三平 まあまあ、じれたもうな。わかる。わかるけれども、アラアの神は曰く、一切は過ぎ去る。すべてはホンのいっときさ。アッハハハ。
欣二 なにが、アハハですよ? 一切が過ぎ去ったりして、たまるもんけえ。俺達ぁ、負けるべくして負けたんだ。(誠に)そうだろう兄さん? そうだね?
誠 …………。
欣二 え? 兄さん達から言やあ、そうなんだろ? そう言ってたね、こないだ? ……なぜ返事をしないんだ?
誠 いいよ。
欣二 そんな、変なふうに笑うのは、よせよ。
誠 お前は酔っている。
欣二 酔うなんて言うなあ、こんなんじゃねえよ。兄さんこそ酔ってい
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