して行く以外にホントの解決はあり得ない。見ろ、お前は良い気になって、タカリをやったり、闇の物を扱ったり、喧嘩をしたりして、そうやって歩いているが、それで、なにが解決できた? 知っているよ俺ぁ。お前の性質は知ってる。お前は、そうして歩いていても、何一つホントの満足らしい満足は得ていない。たかだか、低級きわまる、ゴロツキとしての虚栄心がチットばかり満たされるだけだ。ホントの気持は年中飢えている。だもんだから、又ぞろ、次々と更に刺戟の強い食い物をあさる。いくらあさっても、今度は前よりも一層飢える。それの繰返しだ。――だんだん、病的になる、その中ホントの病気になる――そう言う地獄だ、お前の行きつく所は。
欣二 ……然り、飢えてるね。地獄とはうまく言った。いいさ俺ぁそんな眉つばものの全体なんかの中より、そっちの方へ、やらして貰うとする。なにはともあれ、地獄は、たしかだからね。ヘヘ! んだけど、地獄へ行くのは、この俺だぜ、兄さんじゃないぜ。よけいな世話ぁ焼かないで、ほっといてくれたらどうだえ? おせっかいが少し過ぎやしないかね? 俺ぁ――
誠 (それをたち切って)おせっかいじゃない! 仲間が俺ぁ可愛いからだ。……いいかい、闘いは、終ったのではなくて、始まったのだよ! 今度の戦いは、再び戦わないための闘いだ。まだ、この国の方々に残っているファッショを完全に叩きつぶしてしもう闘いだ。そいつは若い者の仕事だ。つまり、お前たち、身を以てファッショの毒を受けて苦しんだ若い者がやらないで誰がやるんだ? お前がこれまでに受けた手きずを痛く感ずれば感ずる程、そんな無意味な痛苦を今後ひき起さないように、まだ残っている軍閥や財閥の根と、お前は闘うのが、一番自然なんだ。当然なんだ。闘いは、これからなんだよ。その、しょっぱなから、お前は自分の武器を捨てようとしている。ばかりじゃない、お前自身、ファッショの手先になろうとしている。あらゆる場合にゴロツキはファッショの手先だよ。それを、それを、僕ぁ黙って見ては居れない。おせっかいと言われたって、なんと言われたって、仲間がお前、自分の愛している仲間がそんなふうになって行くのを黙って眺めちゃ居れん。僕ぁ、お前がかわいそうで――
欣二 (相手をたち切って)憐れむのかい[#「憐れむのかい」は底本では「隣れむのかい」]? ゲエ! よしてくれ、おい! ヘドが出らあ! ヒヒヒ! 兄さんは、ちっとばかし思いあがりようが過ぎやしないか? そんなら言ってやろう。兄さんは、な――
柴田 (長男と次男のやりとりの間も、昂奮のためにガクガクと喘いでいたのが、欣二の言葉をたち切って)まあ、まあ欣二、いいから、お前は、いっとき、黙っていてくれ!(誠に)さっきお前は民族主義者はファッショの御用学者だ、という風に言ったが、もし私がホントにファッショの御用学者だとすれば、私も困る。そのような自分を、私は許さぬ。いや、だから、そこん所をもう少し聞かせてくれ! いいや、それを聞かなくては、私は黙らぬ。そうではないか! もしそうならば、私はお前達の敵だ。また、もし、そうならばお前達は私の敵だ。言って見てくれ! もう少し、そこん所を――
せい (ハラハラして中腰になり)もう、ほんとに、もういいじゃありませんか。先生も――
圭子 (それと同時に、その前からハラハラして一同を見まわしていたのが、そのチヨット前から欣二がニヤリニヤリとしながら誠の方へ近寄って行きつつあるのに視線を吸いとられていたが、欣二の薄笑いを浮べた表情に、なにか唯ならぬものを感じ取って、不意に真青になってスッと立つ)欣二さん! あなた! (欣二の前に行く)
誠 (その方をジロリと見てから父に向って噛みつくように)言いますよ。お父さんは――
三平 よせよせ、もう! 家庭と言うものは楽しいものでなけりゃならん。ホーム・スウィート・ホームだな。特にこの家庭の夕飯時は、平和と幸福の中心でありまして、ヒッ!
双葉 お願いです! もうやめて! お願い――
欣二 (それをたち切って、自分の前に立った圭子をうるさそうに左手でどけようとしながら、ボンヤリとした語調で誠に)ヘッ、かわいそうだって? かわいそうが聞いて呆れるよ。えばるねえ! えばりなさんな! ハハそんなえらそうな事を言っている癖に、フッ、世間がグレハマになって来ると、またぞろお前さん達ぁ尻に帆かけて、逃げ出すんだ。(圭子に)なんだよ?
圭子 (真青になって、ふりもぎる欣二の腕を又掴んでとめながら)あなた、欣二さん! そんな!
欣二 うるせえなあ、なにがどうしたんだよ? ヘヘ、俺の言ってるのはね、君が生き残るか俺が生き残るか、二人に一人しきゃ生きていけないと言う最後のドタン場になって、どういう答えが飛び出すかだ。ねえ! 人をかわいそうがるのは、そん時に
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